【洒落怖】双眼鏡

双眼鏡

698 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/29 03:01
俺にはちょっと変な趣味があった。
その趣味って言うのが、夜中になると家の屋上に出て、そこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察すること。
いつもとは違う静まり返った街を観察するのが楽しい。
遠くに見えるおおきな給水タンクとか、
酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシーとか、
ぽつんと佇むまぶしい自動販売機なんかを見ていると、妙にワクワクしてくる。

俺の家の西側には長い坂道があって、それがまっすぐ俺の家の方に向って下ってくる。
だから屋上から西側に目をやれば、その坂道の全体を正面から視界に納めることができるようになってるわけね。
その坂道の脇に設置されてる自動販売機を双眼鏡で見ながら、「あ、大きな蛾が飛んでるな~」なんて思っていたら、
坂道の一番上のほうから、物凄い勢いで下ってくる奴がいた。
「なんだ?」と思って双眼鏡で見てみたら、
全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が、満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りつつ、猛スピードで走ってくる。
奴はあきらかにこっちの存在に気付いているし、俺と目も合いっぱなし。
ちょっとの間、あっけに取られて呆然と眺めていたけど、
なんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて家の中に逃げ込んだ。

700 :あなたのうしろに名無しさんが・・・:04/03/29 03:03
ドアを閉めて、鍵をかけて、「うわーどうしようどうしよう、なんだよあれ!!」って怯えていたら、
ズダダダダダダッって屋上への階段を上る音が。
明らかに俺を探してる。
「凄いやばいことになっちゃったよ、どうしよう、まじで、なんだよあれ」って心の中でつぶやきながら、
声を潜めて物音を立てないように、リビングの真中でアイロン(武器)を両手で握って構えてた。

しばらくしたら、今度は階段をズダダダダッって下りる音。
もう、バカになりそうなくらいガタガタ震えていたら、
ドアをダンダンダンダンダンダン!!って叩いて、
チャイムをピンポンピンポン!ピポポン!ピポン!!と鳴らしてくる。
「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」って感じで、奴のうめき声も聴こえる。
心臓が一瞬とまって、物凄い勢い脈打ち始めた。
さらにガクガク震えながら息を潜めていると、
数十秒くらいでノックもチャイムもうめき声止んで、元の静かな状態に……。

それでも当然、緊張が解けるわけがなく、日が昇るまでアイロンを構えて硬直していた。
あいつはいったい何者だったんだ。
もう二度と、夜中に双眼鏡なんか覗かない。

【感想】
この話は、日常の延長線上に突如として現れる“異常”が生む恐怖を描いた、非常にリアルで不気味な怪談です。
最初は穏やかでちょっと変わった趣味の描写から始まり、読者も主人公の視点で深夜の静けさを楽しんでいます。
ですが、全裸の「何か」が手を振りながら坂を猛ダッシュで駆け下りてくるという異常な光景から、一気に恐怖が襲いかかる。この「笑いながら追ってくる得体の知れない存在」という描写は、本能的な恐怖を呼び起こします。
わたしも怪しい意味ではなく街中の景色を眺めるのが好きなのですが、これを読んだときはしばらくやめてました・・・w